京都府丹波町の鳥インフルエンザ問題で、能勢町の四農家とともに、半径三十キロの移動制限区域に入り、商品が出荷できない状態が続いた。
「すぐ送ってくれ」 制限解除が待ち遠しかったのは、長年の取引先も同じだった。 解除後さっそく入った連絡に、「いい卵をつくってきて本当によかった」と改めて長年の苦労をかみしめた。 手には、赤みがかった卵がそっと握られていた。 アス卵は、一個の値段が55円。「価格の優等生」と呼ばれる卵ではかなり高価に映る。が、それは自信の裏返しでもある。 その秘密は、南太平洋のクジラがえさとする「オキアミ」を加えた天然飼料。
オキアミには、アスタキサンチンが多く含まれている。 これをふんだんに食べた親鶏から生まれたアス卵は、殻を割ると赤みがかった黄身がぷくっと盛り上がり、弾力があって、生のまま食べても生臭さが少ない。
寒天づくりの農家に生まれた。 が、農業を継ぐ気はなく、本当は早稲田大に入って、野球の早慶戦に出たかった。 「中学時代、野球をすれば三番か四番打者。相撲にも借り出された」というほどのスポーツマン。しかし、父に命じられ、地元の園芸高校を卒業して農家を継いだ。 昭和30年代半ば、頭打ちとなった寒天に見切りをつけ、採卵養鶏を始めた。 だが、徐々に卵の価格も低下し、大阪の養鶏家は、合理化と規模拡大を目指して次々と 他地域に移転。 そんな中、大阪で生き残るには付加価値のある卵をつくるしかないと飼料の仕入れ業者とつくったのが、アス卵だった。 平成3年ごろのことだたった。
「こんな品質の卵は見たことなかった。 だから、価格は、ヨード卵よりも高く設定した。 最初は、さすがに取引先も販売に抵抗があったようです。」 が、消費者意識の高まりもあり、徐々に販路を拡大。
そして現在、飼育する一万羽の鶏のうち、七千羽をアス卵用の鶏にした。 アス卵の出荷量は、関西を中心に一日6千個にのぼり、土日になると直接買い求めて くる消費者も後を絶たない。